事業戦略を策定する
会社の全体的な戦略ではなく、事業レベルで「誰に」、「何を」、「どのように」販売していくのか?具体的に戦略を立てることが重要です。
- 事業戦略策定
- 事例 私の起業ストーリー
事業戦略策定
事業戦略は、会社全体としての戦略ではなく、
事業単位で目的を達成するために他社との差別化を図るために取る行動や意思決定のことです。
起業してすぐは、欲張らずに何か1つ他社より優れていることをアピールすることを考えてください。
鹿児島市のインキュベーション施設の事務所を借りていたのですが、
その施設の管理者と定期的に経営方針に関する会議をしなければなりませんでした。
私自身、創業時は何でもできると考えていましたので、よく怒られました。
今となっては、事業を絞る意義はよく理解できるのですが、当時は明らかに勉強不足でした。
「やりたいことは全部やる」ではなく、「やるべきことを絞る」
起業で成功するためのポイントの1つだと思います。
ここでは、事業計画の立て方に関して解説していきます。
事業ドメインを設定する
何も考えないで起業すると「できることは何でもやらないとお金が稼げない」という状況になることがあります。
この状況に追い込まれると、膨大な作業量の割に利益が出なくなります。
結果的に徐々に疲弊し、廃業や倒産する確率が高くなってしまいます。
全方向に事業を展開できるのは「リーダー」と呼ばれる業界のシェア1位の企業だけです。
広いフィールドで戦うと大企業の方が圧倒的に有利になるため小さな会社は勝てません。
そのため、小さな会社は狭いフィールドで戦うべきです。
このような考え方をランチェスター戦略といいます。
大企業は広域戦を仕掛けてくるため、小さな会社は局地戦で戦うこと
具体的には、あえて〇〇専門店を名乗る
専門分野を絞ることが起業の成功のコツ
事業ドメインとは
ドメインとは、企業や事業として展開する取り組み範囲を明示したものです。
現在から将来にわたっての企業の生存領域を示すドメインを企業ドメインといい、展開する各事業レベルでのドメインを事業ドメインといいます。
事業ドメインを設定するということは、特定の事業の範囲を決定することであり、具体的にはどのような顧客をターゲットにして、どのようなニーズを満たしていくかを考える必要があります。
事業ドメインは、「エイベルの3つの要素(CFT)」を参考にすると考えやすくなります。
どんな顧客(Who)に対して、どんな機能(What)を、どのような技術(How)によって提供していくのかを設定していくものです。
下の図はそのエイベルの3つの要素を図式したものです。
事業計画を作成する
事業計画を作成するためには、ビジネスフレームワークを活用して情報を整理するとよいです。
「PEST分析」、「5フォース分析」、「3C分析」、「VRIO分析」、「SWOT分析」は特に重要です。
ビジネスフレームワークに関する情報は下記の記事にまとめていますので、参考までにご覧ください。
事業計画を作成する際は、具体的なひな形を用意すると書きやすくなります。
取得しようと考えている助成金の申請書や銀行などの金融機関から提出を求められる資料を事前に調査してください。
私が起業して間もない頃に活用したのは、「鹿児島市ニュービジネスプランコンテスト」という鹿児島市の企画でした。
当時考えていたビジネスプランをどうやって実現していくかを検討している際に、たまたまそのような企画があることを知り応募しました。
大賞に選ばれると賞金100万円と事務所の家賃を1年間補助してもらえる特典も魅力でした。
以下の質問項目は、「鹿児島市ニュービジネスプランコンテスト」に応募する際に提出を求められた資料の一部です。
各項目に回答しながら事業計画を整理してみてください。
事業の詳細を記入してみましょう
1.事業の名称
サービス名などをご記入下さい。
2.事業概要
どのような製品・サービス・システム等をどのような手段で提供する事業かご記入下さい。
3.事業の目的、背景、動機
事業を考えた目的等をターゲットとする顧客も含めてご記入下さい。
4.事業・商品の特徴
事業の新規性、独創性、成長性、セールスポイント等が分かるようにご記入下さい。
5.事業の実施計画
事業の展開について、おおまかなスケジュール等をご記入下さい。
6.事業化に活用する能力、資源
事業化に活用できる技術、ノウハウ、協力者等や参考とする研究論文等があれば、具体的に列挙してください。
7.販売戦略
具体的な販売方法、対象とする市場、その市場の今後の動向等をどのように捉えているのかも含めご記入下さい。
8.販売先の開拓方法
新たな顧客獲得のための販売促進活動として、宣伝の手法やPRの方法等についてご記入下さい。
9.事業化達成目標
事業化後、いつ収益事業として確立され、その時点でどのような項目を達成しているか、目標及び達成できると考える根拠をご記入下さい。
10.地域経済への効果
事業化に伴って見込まれる地域経済への波及効果等をご記入下さい。
事例 私の起業ストーリー
2008年に起業した際に、実際作成した資料などをもとに事例として公開しています。
創業時の事業ドメイン
Webシステム開発の会社として創業した当時は、
時間と予算があればどんなシステムでも構築できると思って仕事をしていました。
実際に色々なシステムを開発しましたが、ある程度の規模のシステム開発には1年程度かかることが多いです。
また、毎回仕様や環境が異なるシステムを何度作っても仕事が楽になることはありませんでした。
私が選んだ事業ドメインは、「通販管理システム」でした。
当時、ネットショップが普及し始めた頃で、トラブルも多かったようでした。
飛び込み営業などを行っていた際に訪問先からこのような話を聞きました。
「300万円かけてネットショップを導入したが、毎月の売上げは1,000円程度。
だからシステム会社は信用できない」
実際に当時それなりのネットショップを構築すると高額になることは理解できます。
システムの導入とマーケティング施策は別です。
店舗側はネットショップを作れば次の日からそれなりの注文が入ると思い込み、
システム会社も売れることは無視して押し売りのような営業をしたのかもしれません。
また、別の会社では1つの注文に対して、伝票を3回以上書いているという話を聞きました。
「電話注文時に手書きし、次に出荷伝票を手書きする。最後に納品書や領収書を手書きする。
お中元やお歳暮の時期には、毎日夜中まで伝票を書いている」
このような通販業務に関する話を色々な会社から集め、情報を整理しました。
誰に | 食品製造業で通販をしている会社 |
---|---|
何を | ネットショップと電話注文を統合管理するシステム |
どのように | インターネットを経由したソフトウェアとして提供 |
ネットショップと電話注文を統合管理するシステムをASP(現在ではSaaSと呼ばれています) として提供すればそれなりのニーズがあるはずと考えました。
創業時の事業計画書
2010年に「鹿児島市ニュービジネスプランコンテスト」で大賞を受賞した際に提出した内容です。
創業してから初めてまともに書いた事業計画書です。
当時は経営学などを一切勉強していなかったので、かなり幼稚な計画になっていました。
システムエンジニアとしての仕事が中心で、経営者というよりは職人でしたので、
営業や財務に関する計画がまったくできていませんでした。
1.事業の名称
受発注基盤ネットショップ
2.事業概要
生産や販売、在庫、購買、物流、会計、人事、給与などの企業内のあらゆる経営資源(人員、物的資産、資金、情報)を統合的に管理し、効率的な業務運用が可能となるWebシステム構築を目的とする。
現段階では、商品、在庫、販売、売上の販売情報をECサイト、通販、卸業務で統合管理できることを目標としている。
3.事業の目的、背景、動機
実店舗とネットショップの両方を運営する企業では、ネットショップ上の販売情報と実店舗の販売情報が連動していないことが一般的である。
そのため、ネットショップ、通販業務(電話、FAX)、店舗業務、卸業務など業務毎に管理システムが必要となる。
これは、在庫不一致のトラブルの発生や、売上情報を手動で会計システムに登録するなど、業務効率の悪化、新たに導入するシステムの運用人員の教育などが発生する原因となる。
大手企業では、すべての業務を一元管理するシステムが導入されており、これにより業務が効率化されている。
大規模システムの構築や導入が難しい中小企業(特に製造業)を中心に普及させたいと考えている。
4.事業・商品の特徴
事業の新規性、独創性、成長性、セールスポイント等が分かるようにご記入下さい
ネットショップ、オンラインショッピングモール、注文管理、顧客管理、営業支援などすべての販売管理の機能を1つに統合したASPサービスは存在しない。大手の社内システムはこのような考え方で大規模なシステムを独自に開発しているが、中小企業が独自に開発や導入することは予算的に難しい(ERP:enterprise resource planning)。
それぞれの機能を持った安価なソフトウェアも販売しているが、すべての機能が連動することは不可能であるため、業務が非効率であることが多い。
また、安価なパッケージのシステムは機能の追加や修正が不可能であることが多いため、業務に適してない場合、運用でカバーする必要がある。
弊社のシステムでは、基本的なシステムはパッケージとして導入し、各企業の独自の業務に対応可能なシステムを構築できることも特徴である。
5.事業の実施計画
実施時期 | 実施する項目 | 具体的な内容等 |
---|---|---|
8~10月 | システム設計 | システムの設計を行う |
11~1月 | システム開発 | 設計したシステムを構築する |
2~3月 | 運用テスト | 業務の観点でシステムテストを行う |
4月~ | 販売開始 |
6.事業化に活用する能力、資源
大手企業のWebシステム開発経験から身につけた、システムの設計・開発に必要な技術とノウハウを活用したい。
7.販売戦略
インターネットを利用した販売が一般的になったことで、通常の販売業務とネット販売業務を一元化したいと考える企業が増大しているため、このようなシステムが普及することは間違いないと考えている。
現在、弊社は製造業をターゲットとした月額費用無料のオンラインショッピングモール(鹿児島Web市場)を営業展開している。
このショッピングモールを導入した企業に対して、受発注システム(注文管理システム)の導入を促す。
システムを一元化することで、それぞれの業務に対応したシステムの操作を覚える必要がないため、業務の引継ぎ等も簡単になる。
鹿児島で運用後、全国展開する方針である。
8.販売先の開拓方法
大手運送会社の顧客に対する宣伝広告を行う。
ECサイトを検討あるいは運用している荷主を対象として、弊社オンラインショッピングモール、独自ネットショップ構築の案内を郵送する。
また、すべての荷主に対して販売管理システム(通販対応、卸業務対応)を広告する。
弊社ホームページへのアクセスも増やすためにSEO対策等を十分行い、インターネットからの集客を強化する。
9.事業化達成目標
達成時期
2012年 8月
達成項目
目標 | 根拠 | |
---|---|---|
①雇用 | 10名以上の新規雇用 | 顧客拡大のため営業担当の増加、顧客サポートのための人員増加を行う。 |
②財務状況 | 資本金3,000万円 | 月額固定収入の増加により、役員報酬の増額が可能。 |
③その他 | ショッピングモール会員数10万人以上 | 独自ネットショップ会員を取込むシステムであるため、会員が増加する。 |
10.地域経済への効果
地方は、農林水産業、製造業などの一次産業、二次産業が占める割合が多い。
製造業を営む会社は販売を卸業者に依存していることが多く、独自の販売ノウハウを確立できていない場合が多い。
また、伝票等の記入も手書きで行っている会社もまだまだ多い。
手書きの作業は時間を浪費することが多く、紙を使った管理は間違いを起こす原因となり、経営状況の分析も難しい。
地方経済が活性化するためには、業務基盤がしっかりすることが前提だと考えている。
地域企業の業務を簡略化、販路拡大のサポートを弊社の開発するWebシステムが行うことで、地域経済の活性化に貢献したい。
経歴概要
2008年に個人事業を開業し、翌年に株式会社SESHを設立しました。 鹿児島市のニュービジネスプランコンテストで2年連続大賞を受賞した経験もあり、事業計画書の策定には強みがあります。 主な業務として、経営全般の企画や管理を行っていますが、 特にWebマーケティングやディレクション、および顧客の経営コンサルティングを担当しています。