経営戦略を策定する
経営戦略を策定するためには、企業理念、ビジョン、ミッション、バリューを定義することが重要です。 一貫した考え方で戦略を立てる必要があります。 起業に向けて情報を整理し、最低限度の方針を定める流れを説明します。
- 経営戦略策定
- 事例 私の起業ストーリー
経営戦略策定
戦略とは、目標達成のために、進むべき方向性やシナリオのことです。
戦術とは、戦略を実行するための手段のことです。
起業を成功させるためには戦略の策定が非常に重要になります。
ここでは、起業の成功確率を高める「経営戦略」の組み立て方として
経営理念、行動理念、人事理念の3つの理念を作る流れを解説していきます。
自分にしかできないことをビジネスにする
お金を稼ぐという目的のためだけでは、ビジネスが成功しない場合があります。
一般的にお金を稼ぐという目的に対して、高いモチベーションを維持することができないと考えられています。
マズローの欲求5段階説では、お金を稼ぐことは第1段階~第4段階の欲求に該当します。
第5段階である「自己実現欲求」が起業の目的の場合、単純にお金がほしいという動機ではありません。
そのため、他人の共感を得られやすくなり、協力者も集まりやすくなります。
好きなことで起業する
「やっていて楽しいこと」は時間を忘れて没頭することができます。
サラリーマンとは違い起業すると給与は保証されません。お金のために起業をするとお金が稼げないことに対して強いストレスを感じます。
起業で成功している人は、好きなことを仕事にしている傾向があります。
得意なことで起業する
好きなことに没頭していると、自然と得意なことになっていることが多いと思います。
「人よりも得意なこと」、あるいは「人よりも詳しく知っていること」起業で成功するためには、他人に負けない「強み」が重要になります。
人の役に立つことで起業する
お金を稼ぎたいと思って起業しても、多くの場合失敗します。
なぜなら、お客様が求めていなければ売れないからです。
お金は「感謝を伝える道具」です。
そのため、お金は人が感謝の気持ちとして払うものです。
人の役に立つこと=儲かること
このことを理解して起業のアイデアを練りこんでください。
好きなこと → 得意なこと → 人の役に立つこと
の順にビジネスを考え
人の役に立つこと → 得意なこと → 好きなこと
逆にして考えても矛盾しないかチェックする
あるべき姿を定義する
ビジネスの成功には「哲学」が重要になります。 具体的には、「なぜ自社は存在するのか?」、「なぜ社会になくてはならないのか?」などを自問自答し、 言語化しなければなりません。
経営戦略の策定とは、「あるべき姿」を定義することです。
あるべき姿と現状を把握する
自身がお金持ちになりたい。自分の家族を幸せにしたい。 ここでいうあるべき姿は、経営者個人の欲望のことではありません。 企業として将来どうあるべきなのかを描くことが重要です。
- 市場でどのようなポジションを目指すのか?
- どのようなブランドイメージを確立したいのか?
- 売上や従業員数などの経営規模はどれくらいか?
5年や10年などの期間を定めて、企業の具体的な目標を落とし込みます。
その目標を達成するために何をすべきなのか? それを逆算することで、事業計画を作成していきます。
質問に答えながらあるべき姿を考えてみましょう
- 1.なぜ起業するのか?
- 2.あなたの強みは?
- 3.どんな商品・サービスを提供しますか?
- 4.ライバルと思う企業は?(3社列挙してください)
- 5.提供する商品・サービスの独自性は何ですか?
- 6.顧客は提供する商品・サービスから何を得られますか?
- 7.自社はどのようなことで社会に貢献するのか?
- 8.どんな会社にしたいですか?
- 9.どんな人を採用してどんな社員になってほしいですか?
- 10.5年後はどうなっていたいのか?
3つの理念を作成する
経営戦略を策定していくためには、 「経営理念」、「行動理念」、「人事理念」の3つの理念を定義します。
理念の整理に重要な4つの考え方
理念をまとめていくためには、以下の4つの考え方が特に重要になります。
パーパス
何のためにこの会社があるのか?という、企業の最も根本的な存在意義や目的、全体の指針を指すことです。
「パーパス」は「自分たちは何のために存在しているのか?何ができるのか?」というWhyに対する答えとなります。
ビジョン
自分たちが目指すところや、未来の姿を指します。
「ビジョン」は「自分たちはどこに向かうのか?」というWhereに対する答えとなります。
ミッション
「パーパス」の実現に向けた戦略であり、成し遂げたいと考える役割や企業活動を規定するものです。
「ミッション」は「何をやるか?」というWhatに対する答えとなります。
バリュー
ミッションやビジョンを達成するためにどのような行動をとるべきなのか、
具体的な行動指針や行動基準となる価値観を示します。
「バリュー」は、社員ひとりひとりの行動の指針となります。
3つの理念を定義しましょう
パーパス、ビジョン、ミッション、バリューから理念をまとめてください。
経営理念
経営理念は、経営者を主語として「会社は何のために存在するのか」などを定義します。
行動理念
行動理念は、従業員を主語として経営理念を実現するために「どのように考え、どのように行動するか」を明確にしたものです。
人事理念
「どのような人と一緒に働きたいか」、「社員にどのような人材をめざしてほしいか」など 人材育成の基本方針などを定義します。
事例 私の起業ストーリー
2008年に起業した際に、実際作成した資料などをもとに事例として公開しています。
10の質問に対する私の回答
なぜ起業するのか?
サラリーマンとしてITの世界に足を踏み入れた私は、大手の下請けのシステム開発を行う会社に勤めていました。
日本を代表するような大企業の社内システムの一部を開発することもあり、仕事を始めたばかりの頃はそのような仕事に携われることに充実感を得ていました。
しかし、そのシステムがどのように使われるのかを聞いた時に、違和感を覚えました。
数億円の予算をかけて構築されたシステムなのですが、実際にシステムを使うのは、大企業の中でも特定部署の数人のみとのことだったのです。
何百人もの人が使うのだろうと勝手に想像していた私は、使う人が少ないと聞いて少しがっかりしてしまいました。
同時に、数人の人が操作するだけで大企業内の巨大なビジネスが動いているという実態を知って、驚愕しました。
使う人は数人ですが、その裏側には大量のデータを処理するシステムが構築されており、その結果、数人の従業員だけで巨大なビジネスが回っていたのです。
「これがシステムの威力か!」と実感した私は、大企業と中小・零細企業の間で、格差がどんどん広がっていくのではないかと懸念しました。
中小・零細企業ではシステムに多額の投資を行えないため、人手での作業を行わなければなりません。
一方、大企業ではシステムに数億円という巨額な投資を行い業務を自動化するため、少ない人数で大きな成果を生み出すことができます。
このシステムへの投資効果は加速度的に結果をもたらすため、大企業と中小・零細企業の格差は益々広がってしまいます。
その結果、中小・零細企業からのイノベーションが起こりづらかったり、従業員の賃金が上がらないといった悪循環を生むのではないかと懸念しました。
そこで、「資本力の差によって使えるITツールに差が出てはいけない」「ITツールなどの環境は皆平等で、他人より努力した人が報われるべき」という考えが自分の中に生まれ、 中小・零細企業に安価でシステムを提供したいという思いから起業に至りました。
あなたの強みは?
大手のシステム開発を請け負ってきたため、高品質な業務システムを設計・開発する技術は有しております。
大手のシステムでは数千万件という大量のデータを処理することもあるため、高負荷に耐えられ変化に強いデータベースの設計やプログラムの開発を行うことができました。
大手では当時はまだ広く普及していなかったWebシステムの開発をメインで行っていたため、導入・配布コストが低いWebシステムの開発ノウハウも有しておりました。
また、中小・零細企業に勤めた経験が多いため、それらの会社の実態を目にしてきたことも、事業を設計するうえでは役に立ちました。
どんな商品・サービスを提供しますか?
中小・零細企業ではシステムに投資できるコストや人員も限られます。
そのため、業務効率化のみを実現するシステムでは費用対効果が少ないため、売上に貢献するシステムも重視されます。
起業にあたり、中小・零細企業の売上アップと業務効率化を同時に実現するシステムを企画・開発し提供することとしました。
具体的には、通販業務を支えるECシステムを対象としました。
ライバルと思う企業は?
当時はECサービスでライバルとなる企業をピックアップしていましたが、具体的な会社名はここでは差し控えさせていただきます。
提供する商品・サービスの独自性は何ですか?
EC単体のサービスやソフトは存在しましたが、ECと電話・FAX注文を同時に管理できるシステムは存在しませんでした。
現在でも、この2つの業務を同時に管理できる安価なサービスは普及していないと思います。
中小・零細企業では複数の業務を一人の担当者が担当するケースが多く、ECサイトからの注文も電話・FAXからの注文も同じ担当者が担当します。
業務ごとに専用システムを構築する予算もないため、似たような業務を一つのシステムで管理できれば、受注した後の業務を一元化でき、一人の担当者でも複数の業務を効率的に運用できます。
中小・零細企業の現場で実際に発生していた課題からヒントを得て、ニーズを満たす独自性を考案しました。
また、提供費用を抑えるためにシステム本体はクラウドサービスで提供しますが、お店ごとの独自の送料計算や箱代の計算、詰め合わせ機能など柔軟性を担保する機能も取り込むことで、細かい要望にも対応が可能です。
ターゲットとする製造業で多く導入されていた配送業者や決済代行業者のAPIと連動することで、注文処理と出荷処理の効率化を実現できる点も、他社との差別化となりました。
顧客は提供する商品・サービスから何を得られますか?
導入・ランニングコストを抑えて、通販業務を一元化し業務の効率化を得られます。
バックオフィスの業務が効率化されることで空いた時間を、売上UPのための集客や商品開発に使うことで、更なる売上向上に繋がり好循環を生み出します。
中小・零細企業では従業員の入れ替わりも多いですが、業務を属人化せずシステム化することで、退職者が出た場合でも業務をスムーズに引き継げるというメリットもあります。
自社はどのようなことで社会に貢献するのか?
中小・零細企業に安価で便利なシステムを導入することで定型的な業務を効率化し、よりクリエイティブで生産性の高い業務に時間を割いて欲しいという想いがあります。
大企業では情報システム部門(情シス)を設けて専属でIT化を推進していますが、中小・零細企業には情報システム部門を設けるだけのリソースがありません。
弊社が中小・零細企業の情報システム部門を兼ねることで、IT利活用に貢献していきたいと考えました。
その結果、より良い商品やサービスが生まれる機会が増え、中小・零細企業からもっとイノベーションが生まれる世の中になれば、日本の競争力も高まるのではないかと考えています。
どんな会社にしたいですか?
システムの提供を通して、お客様のビジネスの成功に寄与できることを共に喜べる仲間が増える会社にしたいと考えています。
システム会社の一方的な考えでシステムを構築するのではなく、お客様の現場の声を集めながら、ニーズに応えていくサービスを提供していきたいと考えています。
また、従業員一人ひとりの自己実現をサポートできる環境を整えたいと思います。
どんな人を採用してどんな社員になってほしいですか?
システム開発やWebの業界は進歩が速く、常に勉強し続けなければなりません。
そのため、自ら学び常に新しいことにチャレンジしていける人と共に働きたいと思います。
ものづくりの楽しさを経験してもらい、会社の理念に共感してお客様のビジネス成功のために、スキルや知識を磨いていける社員に育って欲しいと考えます。
また、営業専属の社員を雇う予定はありません。
ものづくりを行うエンジニアやデザイナーが直接お客様と会話することで、声を聞きながらサービスを直接説明して提供して欲しいと考えます。
5年後はどうなっていたいのか?
鹿児島を代表する中堅企業にシステムを導入していただき、従業員にもやりがいを持ってもらえればと考えます。
3つの理念に対する私の回答
経営理念
中小企業の情報システム部門として、IT利活用に貢献する
行動理念
- お客様の情報システム部門として、社員同様に業務の理解に努めます
- エンジニアやデザイナーが自らの言葉でお客様に説明します
- なるべく専門用語を使わず、お客様に分かりやすい言葉で伝えます
- 誰でも簡単に操作できるシステムの機能を実現します
- 新しい技術ばかりに目を向けず、成熟した技術も活用します
人事理念
- お客様のビジネスの成功に寄与できることを共に喜べる仲間を求めています
- 新しいことにチャレンジできる人材を求めています
- 従業員一人ひとりが自己実現できるよう、学習と成長の機会を与えます
- 従業員の健康に害を及ぼす長時間労働を防止するため、生産性を向上します
- 営業専門職は採用せず、エンジニアやデザイナーが営業を兼ねます
経歴概要
2008年に個人事業を開業し、翌年に株式会社SESHを設立しました。 鹿児島市のニュービジネスプランコンテストで2年連続大賞を受賞した経験もあり、事業計画書の策定には強みがあります。 主な業務として、経営全般の企画や管理を行っていますが、 特にWebマーケティングやディレクション、および顧客の経営コンサルティングを担当しています。