利益とお金は別物
損益計算書が黒字でも、手元のお金が増えているとは限りません。「利益」は会計のルールで計算した儲けであり、「お金(現金・預金)」の増減とは、動くタイミングも中身も違うからです。ズレの代表例は次の3つです。
- 売掛金(売ったが、まだ受け取っていない代金) ─ 売上は「売ったとき」に計上されますが(帳簿に載りますが)、入金は翌月以降。利益は出ているのに、お金はまだ手元にありません
- 借入金の返済 ─ 元本(借りたお金そのもの)の返済は費用になりません。損益計算書が黒字でも、お金は返済で毎月減っていきます
- 減価償却費 ─ 設備の代金は買ったときに支払い済み。費用は後から数年に分けて計上されます(お金は減らないのに費用だけが出る)
例: 赤字70万円、お金は101万円減った〇〇整体院
この講座の例「開業1年目の〇〇整体院」(院長1人の小さな株式会社)は、開業の日に設備代などを払ったあと、手元に150万円を置いて始めました。1年目は70万円の赤字で、決算日の手元のお金は49万円。1年で101万円減りました。2つの数字の違いは、利益から順に計算し直すとわかります。
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利益 −70万円
損益計算書の最後の利益(当期純利益)
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+減価償却費 20万円
費用だが、設備代は開業の日に払い済み
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+まだ払っていない税金 7万円
赤字でもかかる住民税。払うのは決算のあと
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−売掛金 10万円
カード払いなど、まだ入金されていない売上
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−借入金の返済 48万円
費用ではないが、お金は出ていく
お金は1年で101万円減った(150万円 → 49万円)
いちばん大きなズレは、借入金の返済です。それでも店を続けられているのは、開業のときに150万円を手元に残しておいたからです。
黒字倒産 ─ 勘定合って銭足らず
倒産は「赤字だから」起きるのではありません。「支払うお金が無くなったとき」に起きます。損益計算書が黒字のまま資金が尽きて倒産することを「黒字倒産」と呼び、昔から「勘定合って銭足らず」(帳簿の上では儲かっているのに、お金が足りない)と言われてきました。
特に注意したいのが、売上が急に伸びる時期です。仕入れや人件費の支払いが先、売上の入金が後になるため、成長するほど一時的にお金が足りなくなります。「調子がいいときほど資金繰りが苦しい」のは、多くの会社が通る道です。
キャッシュフロー計算書のざっくり知識
お金の流れを記録する決算書が「キャッシュフロー計算書(C/F)」です。作成が義務なのは上場企業で、中小企業では任意のため、自社で作る必要はありません。ただ、「お金の流れを3つに分けて見る」という考え方だけは知っておくと役立ちます。
| 区分 | 内容 | 望ましい状態 |
|---|---|---|
| 営業キャッシュフロー | 本業でのお金の出入り | プラス(本業でお金が増えている) |
| 投資キャッシュフロー | 設備投資や資産の売却 | 成長期はマイナスでよい(将来に投資している) |
| 財務キャッシュフロー | 借入・返済・増資(株を発行して元手を増やすこと) | 借りればプラス、返せばマイナス。営業キャッシュフローとの組み合わせで判断 |
上の整体院の図なら、−70 + 20 + 7 − 10 = −53万円が営業キャッシュフロー、返済の−48万円が財務キャッシュフローです。本業で減ったのか、返済で減ったのかを分けて見ると、打つ手を考えやすくなります。
資金繰り表をつける
小さな会社にとって実用的なのは、キャッシュフロー計算書よりも「資金繰り表」です。月ごとに「月初の残高 + 入金 − 出金 = 月末の残高」を並べるだけの表で、エクセルで十分作れます。
- 向こう半年分の入金・出金の予定を書き出す ─ 売上の入金日、仕入れ・給料・家賃・返済の支払日を月別に並べます
- 残高が減っていく月が「危険な月」 ─ 事前にわかれば、融資の相談や支払い条件の交渉など、打てる手があります
- 事業計画書の「資金繰り計画」の土台になる ─ 融資の申し込みで求められる資金繰り計画は、この表がそのまま出発点になります
過去を記録する決算書と違い、資金繰り表は「未来」を見る道具です。月に一度、数か月先の残高を確かめる習慣が、黒字倒産へのいちばんの備えになります。
著者の実例: 売上が伸びたときこそ苦しかった
ここからは、著者の実例です。整体院とは逆に、利益が出ているのに、お金が増えなかった話です。文中の「B2B」は会社に売る事業、「掛け売り」は代金をあとで受け取る売り方のことです。
書き出してみよう
〇〇整体院が、決算日の残高49万円から書き始めた、2年目の半年分の資金繰り表です。
| 月 | 入金 | 出金 | 月末の残高 |
|---|---|---|---|
| 始まり(決算日) | − | − | 49 |
| 1か月目 | 54 | 53 | 50 |
| 2か月目 | 54 | 60 | 44 |
| 3か月目 | 58 | 53 | 49 |
| 4か月目 | 58 | 53 | 54 |
| 5か月目 | 58 | 53 | 59 |
| 6か月目 | 58 | 53 | 64 |
- 入金: 施術の売上。前の月のカード払いが入る分と、翌月に回る分はほぼ同じなので、売上と同じ額にした。3か月目からは、夜の予約を増やして1日4人ほど(月58万円ほど)を見込む
- 出金: 院長の給料25、家賃10、広告3、水道光熱費と通信費2、そのほか(社会保険料、税理士への報酬など)6、消耗品とカードの手数料3、借入金の返済と利息4(1万円未満は四捨五入)。2か月目は、決算のあとに払う1年目の税金7を足す
- 危険な月: 2か月目。残高が44万円になり、1か月の出金(約53万円)より少ない。売上が減ると足りなくなるので、早めに金融機関に相談しておく
