経営戦略とは

戦略は、目標にたどり着くために進む方向と道すじのことです。経営戦略は、会社全体の戦略です。

最初に、会社が将来どうありたいか(あるべき姿)を決めます。「お金持ちになりたい」のような経営者個人の願いではなく、会社として、何のためにあり、市場でどんな立ち位置を目指し、お客さんにどう見られたいかを描きます。5年後のように期間を決めた目標(人数や規模など)も決め、そこから逆算して、やることを事業計画に落とし込みます。

あるべき姿は、次の4つの問いに分けると、言葉にしやすくなります。マスの中の番号は、手順1の10の質問のうち、その問いに答えるものです。

理念を考える4つの問い

なぜ(パーパス)

何のために会社があるのか

質問1・7

どこへ(ビジョン)

どんな未来の姿を目指すのか

質問10

何を(ミッション)

そのために、どんな役割を果たし、何をするのか

質問3・6

どう動く(バリュー)

日々、どんな基準で考え、行動するのか

質問2・5・8・9

4つの答えを短い言葉にまとめたものが、理念です。この記事では、経営理念、行動理念、人事理念の3つにまとめます(手順2)。

経営戦略の立て方(2つの手順)

  1. 10の質問に答える

    次の10の質問に、1〜2行ずつ答えます。うまく書けない質問は空けておき、あとで戻ってかまいません。

    1. なぜ起業するのか?
    2. あなたの強みは?
    3. どんな商品・サービスを提供しますか?
    4. ライバルと思う企業は?(3社列挙してください)
    5. 提供する商品・サービスの独自性は何ですか?
    6. 顧客は提供する商品・サービスから何を得られますか?
    7. 自社はどのようなことで社会に貢献するのか?
    8. どんな会社にしたいですか?
    9. どんな人を採用してどんな社員になってほしいですか?
    10. 5年後はどうなっていたいのか?

    4のライバルは、会社名でなくても、お客さんが代わりに選びそうな店や手段でかまいません。それぞれの弱みも添えると、5の独自性が書きやすくなります。2・4・5は、「3C分析」(顧客・競合・自社を並べる方法)や「SWOT分析」(強み・弱みと、世の中の変化を整理する方法)の結果も使えます。

  2. 3つの理念を書く

    10の答えを読み返して、3つの理念にまとめます。

    経営理念
    経営者の目線で、会社が何のためにあるのかを1文で書きます。主に1・3・6・7の答え(図の「なぜ」と「何を」)から作ります
    行動理念
    働く人が、経営理念をかなえるために、どう考え、どう行動するかを箇条書きで書きます。主に2・5・8の答え(図の「どう動く」)から、強みや独自性を毎日どう守るかを書きます
    人事理念
    どんな人と一緒に働きたいか、どんな人に育ってほしいかを箇条書きで書きます。主に8・9の答えから作ります

    1人で始めるなら、行動理念は自分が守る決まりとして、人事理念は人を迎えるときのために書いておきます。10の答え(図の「どこへ」)は、5年後の目標です。「As-Is/To-Be分析」(今の姿と目指す姿の差から、課題を見つける方法)で今の姿と並べると、取り組む課題が見えてきます。

記入例: 開業1年目の整体院

〇〇駅から歩いて3分の、院長1人の整体院です(「3C分析」「SWOT分析」の記入例と同じ店)。院長(40歳)は、整体の専門学校を出て、隣の市の整体院で10年勤めたあと、この院を開きました。その院長が書いた例です(架空の例)。

院長の10の答え
質問院長の答え
1 起業する理由勤めていた整体院は19時に閉まり、仕事帰りの会社員から「夜もやっている所はないか」と何度も聞かれた。会社員が仕事帰りに通える整体院を、自分で作ろうと決めた
2 強み整体院で10年勤めた経験。仕事中の姿勢から見直し、家でできる体操も教えられる。毎回同じ人が担当する
3 商品・サービスデスクワークの肩こりを、姿勢から見直す整体(1回60分 6,000円)。予約制で、平日は21時まで受け付ける
4 ライバル駅の近くの整体院(19時に閉まる)、もみほぐしの店(すぐ元に戻る)、整形外科(診察は夕方まで)
5 独自性仕事帰りの20時以降も予約できる。毎回同じ院長が、前回の続きから見る
6 顧客が得るもの休日をつぶさずに、仕事帰りに体を整えられる。家で続けられる体操がわかる
7 社会への貢献駅の周りで働く人に、仕事帰りに体を整える習慣を広める
8 どんな会社に体のことを安心して相談できる院。料金と施術の流れを先に伝え、強い勧誘はしない
9 採用と育成2年目に、受付のパートを1人迎える。お客さんの話を最後まで聞ける人と働きたい
10 5年後受付のスタッフと2人で、平日の夜は、通い続けるお客さんの予約で埋まっている。〇〇駅の周りで「仕事帰りに通える整体院」といえば、名前が挙がる
〇〇整体院の3つの理念
理念中身
経営理念仕事帰りに通える整体院として、デスクワークで働く人が、休日をつぶさずに体を整えられるようにする
行動理念
  • 施術の記録を残し、毎回、前回の続きから見る
  • 仕事中の姿勢を聞き、家でできる体操を教える
  • 料金と施術の流れを先に伝え、強い勧誘はしない
人事理念
  • お客さんの話を、最後まで聞ける人と働く
  • 受付でも、料金と施術の流れを同じように伝えられるよう、院長が教える
施術のあとの整体院で、院長が椅子に座り、両手を肩に置いて肩を回す体操をしてみせている。向かいに座った30代後半の女性が、同じ体操をまねている。窓の外は夜
施術のあと、家でできる体操を教える院長。行動理念に書いたことを、毎回の施術で続けます(架空の例)

院長は、新しいサービスを足すか迷ったときも、経営理念に合うかで決めます。

著者の実例: 起業したときの10の答えと3つの理念

ここからは、著者が起業したときの実例です。中小企業に向けて、通販の業務のシステムを作る会社(会社に売る事業。B2B)です。文中の「EC」はネットで商品を売ること、「情報システム部門(情シス)」は会社の中で IT を担当する部署、「API」は別々のシステムをつないでデータをやり取りする仕組み、「バックオフィス」は受注や出荷などの事務の仕事、「属人化」は仕事が特定の人にしかできない状態のことです。「現在」などは、著者がこの文章を書いた時点の見方です。

2008年に起業した際に、実際作成した資料などをもとに事例として公開しています。

10の質問に対する私の回答

なぜ起業するのか?

サラリーマンとしてITの世界に足を踏み入れた私は、大手の下請けのシステム開発を行う会社に勤めていました。日本を代表するような大企業の社内システムの一部を開発することもあり、仕事を始めたばかりの頃はそのような仕事に携われることに充実感を得ていました。

しかし、そのシステムがどのように使われるのかを聞いた時に、違和感を覚えました。数億円の予算をかけて構築されたシステムなのですが、実際にシステムを使うのは、大企業の中でも特定部署の数人のみとのことだったのです。何百人もの人が使うのだろうと勝手に想像していた私は、使う人が少ないと聞いて少しがっかりしてしまいました。同時に、数人の人が操作するだけで大企業内の巨大なビジネスが動いているという実態を知って、驚愕しました。使う人は数人ですが、その裏側には大量のデータを処理するシステムが構築されており、その結果、数人の従業員だけで巨大なビジネスが回っていたのです。

「これがシステムの威力か!」と実感した私は、大企業と中小・零細企業の間で、格差がどんどん広がっていくのではないかと懸念しました。中小・零細企業ではシステムに多額の投資を行えないため、人手での作業を行わなければなりません。一方、大企業ではシステムに数億円という巨額な投資を行い業務を自動化するため、少ない人数で大きな成果を生み出すことができます。このシステムへの投資効果は加速度的に結果をもたらすため、大企業と中小・零細企業の格差は益々広がってしまいます。その結果、中小・零細企業からのイノベーションが起こりづらかったり、従業員の賃金が上がらないといった悪循環を生むのではないかと懸念しました。

そこで、「資本力の差によって使えるITツールに差が出てはいけない」「ITツールなどの環境は皆平等で、他人より努力した人が報われるべき」という考えが自分の中に生まれ、中小・零細企業に安価でシステムを提供したいという思いから起業に至りました。

あなたの強みは?

大手のシステム開発を請け負ってきたため、高品質な業務システムを設計・開発する技術は有しております。大手のシステムでは数千万件という大量のデータを処理することもあるため、高負荷に耐えられ変化に強いデータベースの設計やプログラムの開発を行うことができました。大手では当時はまだ広く普及していなかったWebシステムの開発をメインで行っていたため、導入・配布コストが低いWebシステムの開発ノウハウも有しておりました。

また、中小・零細企業に勤めた経験が多いため、それらの会社の実態を目にしてきたことも、事業を設計するうえでは役に立ちました。

どんな商品・サービスを提供しますか?

中小・零細企業ではシステムに投資できるコストや人員も限られます。そのため、業務効率化のみを実現するシステムでは費用対効果が少ないため、売上に貢献するシステムも重視されます。起業にあたり、中小・零細企業の売上アップと業務効率化を同時に実現するシステムを企画・開発し提供することとしました。具体的には、通販業務を支えるECシステムを対象としました。

ライバルと思う企業は?

当時はECサービスでライバルとなる企業をピックアップしていましたが、具体的な会社名はここでは差し控えさせていただきます。

提供する商品・サービスの独自性は何ですか?

EC単体のサービスやソフトは存在しましたが、ECと電話・FAX注文を同時に管理できるシステムは存在しませんでした。現在でも、この2つの業務を同時に管理できる安価なサービスは普及していないと思います。中小・零細企業では複数の業務を一人の担当者が担当するケースが多く、ECサイトからの注文も電話・FAXからの注文も同じ担当者が担当します。業務ごとに専用システムを構築する予算もないため、似たような業務を一つのシステムで管理できれば、受注した後の業務を一元化でき、一人の担当者でも複数の業務を効率的に運用できます。中小・零細企業の現場で実際に発生していた課題からヒントを得て、ニーズを満たす独自性を考案しました。

また、提供費用を抑えるためにシステム本体はクラウドサービスで提供しますが、お店ごとの独自の送料計算や箱代の計算、詰め合わせ機能など柔軟性を担保する機能も取り込むことで、細かい要望にも対応が可能です。ターゲットとする製造業で多く導入されていた配送業者や決済代行業者のAPIと連動することで、注文処理と出荷処理の効率化を実現できる点も、他社との差別化となりました。

顧客は提供する商品・サービスから何を得られますか?

導入・ランニングコストを抑えて、通販業務を一元化し業務の効率化を得られます。バックオフィスの業務が効率化されることで空いた時間を、売上UPのための集客や商品開発に使うことで、更なる売上向上に繋がり好循環を生み出します。中小・零細企業では従業員の入れ替わりも多いですが、業務を属人化せずシステム化することで、退職者が出た場合でも業務をスムーズに引き継げるというメリットもあります。

自社はどのようなことで社会に貢献するのか?

中小・零細企業に安価で便利なシステムを導入することで定型的な業務を効率化し、よりクリエイティブで生産性の高い業務に時間を割いて欲しいという想いがあります。大企業では情報システム部門(情シス)を設けて専属でIT化を推進していますが、中小・零細企業には情報システム部門を設けるだけのリソースがありません。弊社が中小・零細企業の情報システム部門を兼ねることで、IT利活用に貢献していきたいと考えました。その結果、より良い商品やサービスが生まれる機会が増え、中小・零細企業からもっとイノベーションが生まれる世の中になれば、日本の競争力も高まるのではないかと考えています。

どんな会社にしたいですか?

システムの提供を通して、お客様のビジネスの成功に寄与できることを共に喜べる仲間が増える会社にしたいと考えています。システム会社の一方的な考えでシステムを構築するのではなく、お客様の現場の声を集めながら、ニーズに応えていくサービスを提供していきたいと考えています。また、従業員一人ひとりの自己実現をサポートできる環境を整えたいと思います。

どんな人を採用してどんな社員になってほしいですか?

システム開発やWebの業界は進歩が速く、常に勉強し続けなければなりません。そのため、自ら学び常に新しいことにチャレンジしていける人と共に働きたいと思います。ものづくりの楽しさを経験してもらい、会社の理念に共感してお客様のビジネス成功のために、スキルや知識を磨いていける社員に育って欲しいと考えます。

また、営業専属の社員を雇う予定はありません。ものづくりを行うエンジニアやデザイナーが直接お客様と会話することで、声を聞きながらサービスを直接説明して提供して欲しいと考えます。

5年後はどうなっていたいのか?

鹿児島を代表する中堅企業にシステムを導入していただき、従業員にもやりがいを持ってもらえればと考えます。

3つの理念に対する私の回答

経営理念

中小企業の情報システム部門として、IT利活用に貢献する

行動理念

  • お客様の情報システム部門として、社員同様に業務の理解に努めます
  • エンジニアやデザイナーが自らの言葉でお客様に説明します
  • なるべく専門用語を使わず、お客様に分かりやすい言葉で伝えます
  • 誰でも簡単に操作できるシステムの機能を実現します
  • 新しい技術ばかりに目を向けず、成熟した技術も活用します

人事理念

  • お客様のビジネスの成功に寄与できることを共に喜べる仲間を求めています
  • 新しいことにチャレンジできる人材を求めています
  • 従業員一人ひとりが自己実現できるよう、学習と成長の機会を与えます
  • 従業員の健康に害を及ぼす長時間労働を防止するため、生産性を向上します
  • 営業専門職は採用せず、エンジニアやデザイナーが営業を兼ねます

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