事業戦略とは
会社が大事にする考え方(理念)と将来の目標を決めるのが経営戦略、1つの事業の具体的な戦い方を決めるのが事業戦略です。事業が1つだけの小さな会社でも、この2つは分けて考えます。決めた「誰に・何を・どのように」は、事業計画書で事業の中身を書く欄に、そのまま使えます(「事業計画書を作る」)。
小さな会社は、戦う場所を絞る
全方向に事業を広げて戦えるのは、業界でいちばんのシェア(市場で占める割合)を持つ「リーダー」と呼ばれる大企業だけです。広い地域と多くの客層を相手にする戦い(広域戦)では、人もお金も多い大企業が有利です。小さな会社は、地域や客層を絞った狭い場所で戦います(局地戦)。この考え方を「ランチェスター戦略」といいます。
次の囲みの「インキュベーション施設」は、起業したばかりの会社に事務所を貸し、経営の相談にも乗る施設のことです。
事業ドメインの決め方(4つの手順)
事業ドメインは、事業の範囲、つまり「どこで戦うか」を決めたものです(ドメインは「領域」という意味の英語)。
決めるときは、「エイベルの3つの要素(CFT)」を使います。どんな顧客(Customer)に、どんな機能(Function)を、どんな技術(Technology)で届けるか、の3つです。この記事では「誰に・何を・どのように」と呼びます。
誰にCustomer
どんな場面で、何に困っている顧客に応えるか
何をFunction
顧客にとって、どんな価値(役に立つこと)を届けるか
どのようにTechnology
自社のどんな技術や、やり方で届けるか
事業ドメイン
(誰)に、(何)を、(どのように)届ける
ペルソナ(顧客1人の具体的な人物像)や、3C分析、SWOT分析(強み・弱みと、世の中の変化を整理する方法)の結果が使えます。まだなら、手順の問いにそのまま答えてもかまいません。
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誰に: 顧客を絞る
「会社員」のような広い分け方ではなく、どんな人か(人物)と、いつ、何に困っているか(場面)まで絞ります。
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何を: 顧客が得るものを書く
商品やメニューの名前ではなく、顧客にとっての価値で書きます。整体院なら「整体」ではなく、「休日をつぶさずに体を整えられる」のように書きます。
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どのように: 自社のやり方を書く
競合にはない自社の強み(技術、やり方、届け方)で書きます。
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1文にまとめ、やらないことも決める
3つの言葉をつなげ、重なる言葉を削って、「(誰)に、(何)を、(どのように)届ける」の1文に整えます。範囲の外の仕事や売り方、つまりやらないことも2〜3個書くと、迷ったときに断る理由になります。
記入例: 開業1年目の整体院
〇〇駅から歩いて3分の、院長1人の整体院です(「3C分析」「SWOT分析」の記入例と同じ店)。院長が、3C分析、SWOT分析と経営理念(「経営戦略を策定する」の記入例)をもとに決めた例です(架空の例)。
誰にCustomer
- 人物: デスクワークの肩こりで、夜に眠れない会社員(佐藤さん)
- 場面: 仕事帰りの20時以降に通いたいが、駅の近くの整体は閉まっている
何をFunction
- 休日をつぶさずに、仕事帰りに体を整えられる
どのようにTechnology
- 予約制で、平日は21時まで受け付ける
- 毎回同じ院長が、仕事中の姿勢から見直し、家でできる体操も教える
事業ドメイン
仕事帰りに通える整体がない、デスクワークの会社員に、休日をつぶさずに体を整えられる時間を、平日21時までの予約制と、毎回同じ院長が姿勢から見直す施術で届ける
やらないことは2つです。
- 料金の安さで、もみほぐしのチェーン店と競わない(1回60分 6,000円。姿勢から見直し、家でできる体操も教える)
- 値下げで、新しいお客さんの数を追わない(1人で受けられる人数が少ないので、通い続けてくれる人に絞る)
ほかのお客さんを断るわけではありません。広告や発信、準備を、選んだ顧客に向けるということです。事業ドメインの1文は、Googleビジネスプロフィールの説明文など、お客さんに伝える言葉の元にもなります。
著者の実例: 創業時の事業ドメインと事業計画書
ここからは、会社に売る事業(B2B)で創業した著者の実例です。前半が事業ドメイン、後半がそれをもとに書いた事業計画書です。文中の「ASP」「SaaS」はインターネットを通して使うソフト、「ERP」は会社の業務をまとめて管理する仕組みのことです。
2008年に起業した際に、実際作成した資料などをもとに事例として公開しています。
創業時の事業ドメイン
Webシステム開発の会社として創業した当時は、時間と予算があればどんなシステムでも構築できると思って仕事をしていました。実際に色々なシステムを開発しましたが、ある程度の規模のシステム開発には1年程度かかることが多いです。また、毎回仕様や環境が異なるシステムを何度作っても仕事が楽になることはありませんでした。
私が選んだ事業ドメインは、「通販管理システム」でした。当時、ネットショップが普及し始めた頃で、トラブルも多かったようでした。飛び込み営業などを行っていた際に訪問先からこのような話を聞きました。
「300万円かけてネットショップを導入したが、毎月の売上げは1,000円程度。だからシステム会社は信用できない」
実際に当時それなりのネットショップを構築すると高額になることは理解できます。システムの導入とマーケティング施策は別です。店舗側はネットショップを作れば次の日からそれなりの注文が入ると思い込み、システム会社も売れることは無視して押し売りのような営業をしたのかもしれません。
また、別の会社では1つの注文に対して、伝票を3回以上書いているという話を聞きました。「電話注文時に手書きし、次に出荷伝票を手書きする。最後に納品書や領収書を手書きする。お中元やお歳暮の時期には、毎日夜中まで伝票を書いている」
このような通販業務に関する話を色々な会社から集め、情報を整理しました。
| 誰に | 食品製造業で通販をしている会社 |
|---|---|
| 何を | ネットショップと電話注文を統合管理するシステム |
| どのように | インターネットを経由したソフトウェアとして提供 |
ネットショップと電話注文を統合管理するシステムをASP(現在ではSaaSと呼ばれています)として提供すればそれなりのニーズがあるはずと考えました。
コンテストに出した事業計画書
私が起業して間もない頃に活用したのは、「鹿児島市ニュービジネスプランコンテスト」という鹿児島市の企画でした。当時考えていたビジネスプランをどうやって実現していくかを検討している際に、たまたまそのような企画があることを知り応募しました。大賞に選ばれると賞金100万円と事務所の家賃を1年間補助してもらえる特典も魅力でした。
以下の質問項目は、「鹿児島市ニュービジネスプランコンテスト」に応募する際に提出を求められた資料の一部です。各項目に回答しながら事業計画を整理してみてください。
この下が、コンテストの10の項目と著者の答えです。事業ドメインは2の事業概要(何を・どのように)と3の目的・背景(誰に)に、強みは4の特徴と6の能力に生きています。2010年当時の資料で、著者が振り返るとおり、営業やお金の計画はまだ不十分でした。数字の計画の作り方は「事業計画書を作る」で説明しています。
創業時の事業計画書
2010年に「鹿児島市ニュービジネスプランコンテスト」で大賞を受賞した際に提出した内容です。創業してから初めてまともに書いた事業計画書です。当時は経営学などを一切勉強していなかったので、かなり幼稚な計画になっていました。システムエンジニアとしての仕事が中心で、経営者というよりは職人でしたので、営業や財務に関する計画がまったくできていませんでした。
1.事業の名称
受発注基盤ネットショップ
2.事業概要
生産や販売、在庫、購買、物流、会計、人事、給与などの企業内のあらゆる経営資源(人員、物的資産、資金、情報)を統合的に管理し、効率的な業務運用が可能となるWebシステム構築を目的とする。現段階では、商品、在庫、販売、売上の販売情報をECサイト、通販、卸業務で統合管理できることを目標としている。
3.事業の目的、背景、動機
実店舗とネットショップの両方を運営する企業では、ネットショップ上の販売情報と実店舗の販売情報が連動していないことが一般的である。そのため、ネットショップ、通販業務(電話、FAX)、店舗業務、卸業務など業務毎に管理システムが必要となる。これは、在庫不一致のトラブルの発生や、売上情報を手動で会計システムに登録するなど、業務効率の悪化、新たに導入するシステムの運用人員の教育などが発生する原因となる。大手企業では、すべての業務を一元管理するシステムが導入されており、これにより業務が効率化されている。大規模システムの構築や導入が難しい中小企業(特に製造業)を中心に普及させたいと考えている。
4.事業・商品の特徴
ネットショップ、オンラインショッピングモール、注文管理、顧客管理、営業支援などすべての販売管理の機能を1つに統合したASPサービスは存在しない。大手の社内システムはこのような考え方で大規模なシステムを独自に開発しているが、中小企業が独自に開発や導入することは予算的に難しい(ERP:enterprise resource planning)。それぞれの機能を持った安価なソフトウェアも販売しているが、すべての機能が連動することは不可能であるため、業務が非効率であることが多い。また、安価なパッケージのシステムは機能の追加や修正が不可能であることが多いため、業務に適してない場合、運用でカバーする必要がある。弊社のシステムでは、基本的なシステムはパッケージとして導入し、各企業の独自の業務に対応可能なシステムを構築できることも特徴である。
5.事業の実施計画
| 実施時期 | 実施する項目 | 具体的な内容等 |
|---|---|---|
| 8~10月 | システム設計 | システムの設計を行う |
| 11~1月 | システム開発 | 設計したシステムを構築する |
| 2~3月 | 運用テスト | 業務の観点でシステムテストを行う |
| 4月~ | 販売開始 |
6.事業化に活用する能力、資源
大手企業のWebシステム開発経験から身につけた、システムの設計・開発に必要な技術とノウハウを活用したい。
7.販売戦略
インターネットを利用した販売が一般的になったことで、通常の販売業務とネット販売業務を一元化したいと考える企業が増大しているため、このようなシステムが普及することは間違いないと考えている。現在、弊社は製造業をターゲットとした月額費用無料のオンラインショッピングモール(鹿児島Web市場)を営業展開している。このショッピングモールを導入した企業に対して、受発注システム(注文管理システム)の導入を促す。システムを一元化することで、それぞれの業務に対応したシステムの操作を覚える必要がないため、業務の引継ぎ等も簡単になる。鹿児島で運用後、全国展開する方針である。
8.販売先の開拓方法
大手運送会社の顧客に対する宣伝広告を行う。ECサイトを検討あるいは運用している荷主を対象として、弊社オンラインショッピングモール、独自ネットショップ構築の案内を郵送する。また、すべての荷主に対して販売管理システム(通販対応、卸業務対応)を広告する。弊社ホームページへのアクセスも増やすためにSEO対策等を十分行い、インターネットからの集客を強化する。
9.事業化達成目標
達成時期
2012年 8月
達成項目
| 目標 | 根拠 | |
|---|---|---|
| ①雇用 | 10名以上の新規雇用 | 顧客拡大のため営業担当の増加、顧客サポートのための人員増加を行う。 |
| ②財務状況 | 資本金3,000万円 | 月額固定収入の増加により、役員報酬の増額が可能。 |
| ③その他 | ショッピングモール会員数10万人以上 | 独自ネットショップ会員を取込むシステムであるため、会員が増加する。 |
10.地域経済への効果
地方は、農林水産業、製造業などの一次産業、二次産業が占める割合が多い。製造業を営む会社は販売を卸業者に依存していることが多く、独自の販売ノウハウを確立できていない場合が多い。また、伝票等の記入も手書きで行っている会社もまだまだ多い。手書きの作業は時間を浪費することが多く、紙を使った管理は間違いを起こす原因となり、経営状況の分析も難しい。地方経済が活性化するためには、業務基盤がしっかりすることが前提だと考えている。地域企業の業務を簡略化、販路拡大のサポートを弊社の開発するWebシステムが行うことで、地域経済の活性化に貢献したい。
