この連載について

講座は「方法」、この連載は「実況」

実践講座の記入例で、このサイトの事業計画の骨組み──顧客・課題・価値・競合・収益モデル──は公開しました。 ただ、事業計画は一度書いて終わりではありません。書いたあとも、決めるべきことが次々に出てきます。

そこでこの連載では、講座で「方法」として解説したことを、私自身がこのサイトに当てはめて決めていく過程を実況します。 結論だけでなく、迷った点や捨てた案も含めて書きます。 起業の判断で本当に役に立つのは、きれいな結論よりも「何を根拠に、どう捨てたか」だからです。 想定客がいまこれを読んでいるあなたであることは、講座の記入例と同じです。私の検討を、あなたの事業の下書きとして使ってください。

今回の論点 月額サポートに「人」を入れるか

検討する対象 ─ 段階型モデルの第4段

このサイトの収益モデルは、顧客が前へ進むほど深く支える段階型です(講座第5回の記入例)。

  1. 記事(無料) ─ 検索から来た読者が、費用の心配なく学び始められる
  2. 経営分析ツール(無料・要会員登録) ─ 学んだことを書き込み、保存する
  3. AIコンサル(有料) ─ 入力した分析から、計画書のたたき台づくりと磨き込みを支援する
  4. 融資向け事業計画書の継続サポート(月額) ─ 日本政策金融公庫への申請を想定し、仕上げて出すまで・出した後も支える

今回設計するのは、この第4段です。「継続的に支える」と一言で書きましたが、誰が・何で支えるのかを決めないと、価格も、作るべき機能も決まりません。

「人の伴走」の魅力と落とし穴

最初に頭に浮かんだのは、私自身が面談やメールで伴走する形でした。 経営コンサルティングは本業のひとつで、相談の場で計画書が良くなっていく手応えも知っています。単価も高く設定できます。

しかし、書き出してみると落とし穴のほうが大きいと分かりました。

  • 時間の天井 ─ このサイトは一人で運営しています。私の時間を売る設計にすると、契約数の上限=私の空き時間になり、売上計画が最初から頭打ちになる
  • 品質のばらつき ─ 繁忙期の私と余裕のある私で、サポートの質が変わってしまう。月額をいただく約束として不誠実になる
  • 強みとのずれ ─ 第1回の棚卸しで確認したこのサイトの強みは「受賞した計画書の実例」と「Web・ITで仕組みを作れること」。体を増やせることではない

VRIO分析の言葉で言えば、「私の時間」は増やすことも真似を防ぐこともできない経営資源です。 そこに事業の柱を立てるべきではない、というのが道具箱(VRIO分析)を自分に当てはめた結論でした。

決定 ─ 人の伴走はなし、例外はスポット対応

結論はこうです。月額の継続サポートに、人の伴走は入れない。AIとシステムで完結させる。

ただし、システムでは受け止めきれない相談が来ることも現実にはあるはずです。 その場合は、月額とは別枠の「スポット対応」として都度受ける余地だけを残します。 大事なのは、スポット対応を売り物の中心にしないこと。あくまで例外の逃がし弁であって、これを頼りに売上を組んだ瞬間、時間の天井が復活します。

決めると、残りの設計が固まる

提供する中身は「ソフトウェア」として定義する

「人を入れない」と決めた瞬間、サポートの中身は機能の言葉で書けるようになります。現時点の設計はこうです(これから作り込む構想を含みます)。

  • 公庫の創業計画書の様式に沿った、計画書たたき台の出力(AIコンサルの拡張)
  • 提出前のセルフチェック ─ 金融機関の視点で見られる項目を、自分で点検できる仕組み
  • 計画更新のレビュー ─ 申請後・開業後に計画と実績のずれを見直す、継続利用の理由になる機能

あいまいな「継続的に支えます」が、作るべき機能のリストに変わりました。 事業計画書の言葉で言えば、提供価値がそのまま実行計画(何をいつ作るか)に落ちたことになります。

あなたの事業への転用 ─ 自分の時間を売らない設計

この検討は、そのままあなたの事業にも使えます。問いは同じです。 あなたの商品は、あなたの時間を売っていないか。

時間を売る事業がすべて悪いわけではありません。ただ、その場合は売上の上限が稼働時間で決まることを、計画の数字に正直に反映する必要があります。 もし上限を外したいなら、第3回の価値設計に戻って、「仕組みで提供できる部分」と「人でしか提供できない部分」を分けて書いてみてください。 人でしか提供できない部分が本当に価値の中心なのか──私の場合は、そうではありませんでした。